遠くに聞こえる飛竜の空を切る音。
城内に響く高らかな少女の声と止まない異形兵との交戦の音。
竜の守人たちに囲われるように横たわる神竜リュール。
視界に映る仲間たちの表情は徐々に絶望の色を深めていった。





紡ぎの指輪 第6話





私を引き止めていた手は感触を残したまま離れていってしまった。
もう自分を抑止するものは何も無いというのに…。

「りゅー…る…っ」

自由に動かない足。
考えようとする先から空白になっていく頭。
目の前で眠るマロンと同じように目を閉じてしまった友の最期の姿だけが。
にこりと微笑んだあの顔だけがそんな空白の中にただひとつ焼き付いて残っている。

「嫌です!私、まだまだ神竜様のお側にいたいです!!!」
「お願いですから、戻ってきてください!!!」

フランとクランの泣きじゃくる声。
彼らの隣で何度も何度もリュールの手首や首に指を当てて脈を測ろうとするジャン。
声を拾った耳は情報を入れようと必死にそれらを視界に映した。
どんなに揺さぶっても、杖をかざしてみても…彼の瞳は固く閉じられたまま。
ソンブルに焼かれた体はどの部分も痛ましく、皮膚の下が覗いてじわりと血を滲ませていた。



あの日に、似ている。



霧がかかったような頭の中で私はふとこの世界に降り立った時のことを思い出す。
ルミエルの呼びかけに誘われるように降り立ったこの世界で初めて目にした光景。
死にゆくルミエルと泣きじゃくるリュールたちの姿。
あの日、私は彼女からリュールを助けてあげてほしいと頼まれたのに。



「神竜様!!!神竜様ぁ…っ!!!」



よく通る声が私の空白の世界を貫通していく。
信仰対象への不敬を気にするパンドロが必死にリュールの体を揺さぶりながら彼を呼ぶ。
信じたくないと一心に。
呆然と立ち尽くしていた他の仲間たちもそんな彼の様子を見て、中心で眠る彼に呼びかけ始めた。
起きてくださいと。


…ねえ、私は……何のためにこの世界に来たの?


右手中指に嵌まった紡ぎの指輪に視線を落とすもそれは何も応えはしない。
世界の運命を変えるための長い旅をしてきた私は、幾度も異界を渡り、
幾度も戦に身を投じ…この世界では救世主という存在にまでなっていて。





全然っ……私はっ、救世主なんかじゃないよ……っ。


私は……紡ぎの精霊は…、何の運命を変えようというの?





この世界の運命の要であるはずの神竜リュールの命は目の前で散っていった。
精霊は邪竜の手に堕ちた世界を望んだとでも言うのだろうか。

「無我夢中になって異形兵を必死に倒している様は見ていて滑稽ですね。
……少しでも長く抵抗して私を楽しませてください」

四狗を見送り、この場にひとり残ったヴェイルは傍観の姿勢を解いて足下の鎖を鳴らし始める。
赤く染まった瞳と小さな唇はにんまりと歪曲しており、彼女はその手に持った魔道書を光らせた。

「ああ…お兄様を異形兵にしてあなたたちに仕向けるのも面白そうですね」

再び君臨した邪竜の娘は、その強大な力を行使しながらゆっくりとした足取りで着実に兄のもとへと歩み寄る。


「これ以上、神竜様を汚すことは許さない!!!」


怒号とともにヴェイルの足下に突き刺さった一本の槍。
風を切る音。
アルフレッドは目にも留まらぬ速さでヴェイルと彼らの間をその身で断ち、彼女の喉元に刃を突きつけた。
その表情は平和を愛する普段の彼からは想像もつかないほど鬼のように険しいものであった。

「そんなに急がなくてもちゃんと全員殺してあげます。
…それとも、お兄様を守りながら死ぬことが望みですか?」

「……命を投げ打つ覚悟などとうにできている。
……ただ、僕の大切な親友を辱めることは許さない!!!」





……





「マル…ス?」

ふと、彼の声がした気がして足下に目を落とすと、英雄王の指輪がこちらを見守るように佇んでいた。


希望を捨ててはいけないよ。


いつか彼がよく言っていた言葉。
それを思い出した私は、彼の思いを刻むように拾い上げた指輪を右手の薬指に嵌める。





そうだ。

紡ぎの精霊はまだこの世界の運命を導き続けている。





「いいでしょう。まずはあなたから殺してあげますよ!!!」
「お兄様っ!!!」

ヴェイルの詠唱で発現した雷は天高くからアルフレッドの身を貫こうと振り落ちる。



「ヴェイルっ!!!」



力一杯張り上げた声と放った一陣の風は間一髪のところで雷を飲み込んでいく。
風は破裂音を轟かせながら、ヴェイルの魔法を食い殺したと言わんばかりに彼女を取り巻くように煙を漂わせた。
ようやく駆け出した私の体は煙の中に時折見える少女の影を追い、ダンっと床を大きく蹴って飛び込んだ。

「……っ!?」

臆することなく伸ばした両腕でヴェイルの体を抱き込めば、二人分の体はそのまま床に倒れ込む。

「くっ…忌々しい。そんな力で私を拘束できたと思っているんです、かっ!?」
「…うあっ!!!」

その細い腕からは想像がつかないほどの力で私を引き剥がそうと暴れるヴェイル。
放すまいと必死に食らいついたが、その力の差は歴然であり、すぐに私の体は固い床に叩きつけられた。

っ!!!」
「煩いですね。少しでも動けば……わかりますね?」

アルフレッドを初めとした仲間たちの声が聞こえてきたが、それもすぐに抑圧されて静まりかえる。
強い衝撃を受けた体は麻痺を起こしたかのように動かず、怒りに満ちたヴェイルの小さな手はいとも簡単に私の顎を捉えた。



「ああ、グリのお気に入りじゃないですか。さきほどの戦闘ではずいぶん仲良くしていたみたいですね」
「……!」



暗く輝く赤い瞳に自分の顔が映り込む。
似ても似つかない彼女の瞳の色と出された名前に彼を思い出す。
ぴくりと反応した私に、彼女は悪戯を思いついた子供のような表情を浮かべ始めた。

「知っていますか?グリは痛めつけられることが大好きなんですよ。
戦果の褒美として私に手を上げられることを切望するくらいに」
「何が言いたいんです?……うっ!!」

顎から外された手はもう片方とともに私の喉をほんの少し押し上げる。
力を込めたり、緩めたり。
感触と私の反応を楽しむように彼女は何度もそれを繰り返す。



「あなたの首を褒美として彼に差し出したらどうなるでしょうね」



恍惚として笑みを浮かべる彼女の右手はゆっくりと首から離れ、残された左手は逃すまいと喉を押し潰す力を強めた。
苦しい…っ。苦しい!!…苦しい!!!
時折、ひゅっと漏れる自分の喉の音と目の前の彼女の声だけが私の頭を支配していく。

「グリがあなたを獲物として見ているのか、それ以外であるかは知りませんが。
…どちらにせよ大好物の痛みの味に酔いしれてくれるでしょうね」
「……ぁっ、……ぐぅ……っ」
「ふふ、苦しいですか?いいですよ。その歪んだ表情のまま…楽にしてあげます」

薄らぐ視界の端にヴェイルの右手に持たれた短剣の切っ先が私を捉えて光を放つのが見えた。
痛む私の体にはここを逃れるための力はもはや残されていない。





紡ぎの精霊。

ごめんなさい。

私の未来はあなたの望む未来の途中で終わるみたい。





「さようなら」

勢いよく私の喉元へと迫る刃。
一瞬のその時間の流れはなぜだかとてもゆっくりで。
空間に私だけが取り残されたようにとても静かで。
今まで渡ってきた異世界の思い出だけが忙しなく脳内を駆けていく。
そして、最後に浮かぶのは…見覚えのある森の中で私に微笑む緑髪の魔道士の姿。



……グリさん。

あなたのもとへ導かれた理由は結局わからず終いだったけど……出会えてよかった。

もしも、また巡り会うことができるのなら……今度はあなたと。










「………悪いな、ヴェイル様。…俺の信念よりもずっと大事なものを返してもらうぜ…っ」










滲む景色の中。突然、目の前に入り込んできた黒。
喉を圧迫していた小さな手は勢いよく剥がされる。
支えを無くし、重力に従い床に崩れ落ちる自分の体。
死を覚悟していた脳は何が起こったのかをまだ把握できずにいたが、
本能は断たれていた酸素を急速に取り込もうと私の体を動かした。

「げほっ…ごほごほっ!!!…はぁっ、はっ…はぁっ!!!」

苦しい。苦しさから解放されたい。早く…もっと……っ!!!
床に転がったままの体はもがくように動き、必死に酸素を体内に送り始める。

「大丈夫か?」

自身から出る荒い息のノイズの中に割り込む声。
これは離れていってしまったはずのその人であろうか。
私が最期に切望したその人であろうか。
ズキズキと痛む体に鞭を打ち、まだ続く息苦しさに顔を歪ませながら上体を起こす。
供給された酸素によって徐々に鮮明に戻っていく瞳に映ったその人影は紛れもなく。

「………ぐ、り…さん?」
「おう」

ひゅっ、ひゅっ…と小刻みな呼吸音と掠れた私の声。
それが届くと、彼はほんの少しだけ振り向いて、そして優しく目を細めた。

「……っ」

体から力が抜けていく。
痛みでも苦しみからでもない涙が私の視界をまた滲ませた。

「……っ。この私に刃向かうと言うのですか?」
「ああ。…そのために来たからな…っ」

グリの両手はヴェイルの両手首をがっちりと掴み、二人の体格差もあって完全に彼はヴェイルの動きを封じ込んでいた。
しかし、彼女は竜の子。
小さくとも人間よりも持っている力は上である。
ぎりぎりと攻防をする苦しそうな声が両者から漏れ出るのが聞こえてくる。

「あなた一人で私が抑えられるとでも…っ!?」
「…ぐぅっ、かっ……はっ!!!」

ヴェイルが唯一自由になっている足でグリの腹部を力一杯に蹴りつけると、彼の足下には赤い液体が落ち始める。
しかし、痛みで歪んだ彼の口角は何かを見つけてにぃと上がった。



「はっ…誰が、あんたと一人でやり合うかよ」



ガシャンガシャンとこちらに近付く重い金属音。

「おい、モーヴ!ヴェイル様の騎士だっていうんなら、その絆で取り戻してみろよ!!!」
「言われなくともそのつもりだ!!!」

重装兵とは思えないほどの速さでこちらに駆けるモーヴは、その勢いのまま迷わずヴェイルの頭に着けられた魔法具に手を掛けた。

「放しなさい、モーヴ!!!主の声が聞こえないのですか!?」
「あなたは俺の主ではない!!!俺の、ヴェイル様をっ…返してもらうぞ!!!」
「やめなさい!!!やめ…っ」

めきめきと魔法具の角を折る音が周りで繰り広げられている交戦の音の中に紛れ込む。
マロンの決死の攻撃で付けられたヒビは徐々にその亀裂を大きくしていく。
モーヴが力を加えるたびに上がるヴェイルが焦るような、苦しむような声。



「も、ヴ…!…モーヴ…っ!」



奇声の中にほんの少し声色が変わった、彼の名を呼ぶ声が混じり出した。

「……ヴェイル、様…!?」
「う…グっ……往生際が悪いですね……っ」
「モーヴ!力を抜くんじゃねえ!!!」

一瞬、動きが止まったヴェイルの体は再び暴れ出す。
死んだと豪語されていたヴェイルの心が戻りかけているのかもしれない。
苦痛に歪む少女の口からは待ち望んだ声が次々に解放されていく。



「モーヴ。あなたの声、届いたよ。わたしを引き戻してくれてありがとう」

「ヴェイル様…っ」



振り向くヴェイルと彼女を待ち望んだ彼の優しい眼差しがようやくの逢瀬を果たす。
しかし、邪竜の娘としてのヴェイルの人格は二人の間を引きちぎろうとあがき、闇の中から手を伸ばす。

「……ぐ、ううっ!」
「ヴェイル様!!!」
「………煩いですよ!私のためにも早く死んでください!」

二人のヴェイルが互いの生死を懸けて争っている。
彼女の苦痛の表情と漏れる声。

「……おとなしく死んでなんかやらない…!お兄ちゃんを助けるの!!!
だから、わたしは…もうっ、自分には負けない!」

……ヴェイルが戦っているのに、いつまでも寝ているわけにはいかないっ。
傍観していた体はすでに息を整えきっている。
あとは痛む体とその感覚には無視をして、記憶を頼りに私は自身のローブの中に手を這わせた。



「ヴェイル!!勝って!!!優しいあなたに戻って!!!」



彼女は必ず自身に勝つ。
交わった彼女との視線に確信した私は、取り出したそれをモーヴの頭上へと思い切り投げ込むと、すぐに魔法を放った。
洗練された切れ味のよい風の刃が小瓶を二つに切り裂き、その中身を彼に注ぐ。

「力のしずくです!モーヴさん、お願いします!!!」
「承知した!」
「……ぐあああ!!!嫌だ…死にたくない…お父様…お父様!」

モーヴから加えられる力が強くなり、ヴェイルの声も暴れ方も一層大きくなる。

「パパはわたしを助けになんか来ない!……グリ、もう大丈夫。モーヴ、私に力を貸して!」
「……ああ」
「どこまでもお供いたします」

本来の姿に戻りつつあるのを確信したグリの手が彼女の両手の拘束を解く。
そして、解放された彼女の右手は迷うことなく魔法具を掴むモーヴの手に添うように置かれ…。





「さようなら…もうひとりの私!!!!」
「…ぁぁあああああ!!!!!」





バキバキっ!!!
二人の渾身の力で鳴らされる魔法具ともうひとりのヴェイルの断末魔。
彼女と最期をともにするように、彼女に造られた異形兵たちも灰と化して散っていく。
そして、折られた角の後を追うようにヴェイルの頭から外された魔法具が地に落とされ、最期の音を鳴らした。

「…モーヴ。わたしは…もう、大丈夫だよ」
「ヴェイル様!!良かった。本当に良かった…っ!」

彼女を護るために四狗として行動していた彼の目からはずっと心に溜め込んでいたのであろう感情が堰を切ったように溢れ出る。
きっと彼女もそんな彼を初めて見たのだろう。
少し目を見開いて、それから泣かないで…と伸ばした手で彼の頬を擦った。

「……グリも………ごめんなさい」
「……あんたがやったんじゃない。それよりもやることがあるんじゃねえのか?」
「そうだ、異形兵にっ!!……お兄ちゃんとの約束を果たさなきゃ!!!」

横たわるリュールを守るように囲う兵士たちに向かって走り出す彼女の背中を見送ると、
すぐさま私は依然として足下に血溜まりを広げているグリを治療するために杖を取り出した。

「まったく無茶をする」
「……はっ、仕方ねえだろ。……くっ!!!」

カラカランと乾いた金属音が床を這う。
血痕を走らせて止まった赤黒い血に塗れたそれは…私が受けるはずだったヴェイルの短剣だ。

「ぐ、り…さん…!!!」

痛みの原因を取り除いたことによって力の抜けた彼の体。
その腹部からはおびただしいほどの血液が流れ、肌を赤く染め尽くしていた。
崩れ落ちようとする彼を血の気が引いた私の本能が腕を伸ばして抱き留める。

「……ごめんなさいっ!」
「……そんな顔するんじゃねえよ。あんたが無事でよかったぜ…」

自身の手に持たれた杖は動揺で小刻みに震えてしまっている。
慣れるものではないとしても、これまでに大量の血や怪我も幾度も見てきたはずなのに。
こんなにも頭も心臓も落ち着かないのは……。

「俺がやろう」
「大丈夫です。……私が、……やらなきゃ」

ゆっくりと床に横たえたグリの腹部へ手と杖を添え、精神を集中させるために目を閉じる。
魔力の流れが自分の手と彼の肌の間に集まり出すのを感じる。
無事に詠唱を終えると、呼応したリライブの光がグリの患部を覆い包んだ。
少しずつ癒えていく傷をモーヴと見ていると、くぐもった声でグリが私の右手を視線で指した。



「……?……光ってねぇか、それ?」



指されたそれは紡ぎの指輪。
私にとってこれが光ることはどこかに移動させられるということだ。

「待って!この状況では無理!いや……」
「この時をずっと待ちわびていました。ようやく悲願を果たすことができます」
「……え?」

最後に聞いたのはもうずいぶん前のことだろうが、私は忘れてなどいなかった。
私をこの長い旅に誘い、そしてずっと待っていたこの声を。
しかし…。

。あなたを通して紡いだ時と絆の力は今この瞬間のためのもの。
私が姿を顕わにできるのが何よりの証明です…」

光る指輪が中指から解かれ、その光を大きくしたかと思えばそれは私が初めに見た宝玉の形ではなく人の姿に変わったのだ。
ひざ下まで伸ばされた長い髪。
その艶やかな髪と私を映す瞳は青と赤の二色で。



「…リュー…ル?」



目の前にいるのは女性の姿をしているものの、その容姿はすぐ向こうで眠る彼に酷似しており、
何事かとこちらを見ていた者たちも驚きの声を上げていた。

…私はあなたと時をともにした精霊です。
いえ…正確に言えば、邪竜に敗れた世界で死んだリュールの嘆きと抗いたいという思念から生まれた精霊です」

にこりと微笑んだ彼女はグリを癒やしている途中の私の手の甲にそっと自身の手を重ねた。
あたたかな熱…いや、彼女から発せられている魔力が私の手を通り、グリへと流れ込んでいくのを感じる。
みるみるうちに彼の腹部にあった傷は癒え、癒やしの光はゆっくりと止んだ。

「グリさん!」
「大丈夫、気を失っているだけです。…あなたはこのまま彼を。リュールは私に任せてください」

長い髪を揺らして、彼女…紡ぎの精霊は私たちに背を向ける。
ふわりと宙を舞い、リュールの傍で何かを詠唱するヴェイルの肩に手を添えると、ふるふると首を横に振った。

「竜の子よ。仮初めの救済を与えずともいいのです。
リュールの魂を繋ぎ止めているあなたと彼の絆の力を……その想いを強く念じて私に預けてください」
「お兄ちゃんを……助けられるの?」
「はい。絆の力がきっと奇跡を起こすでしょう。……そのための私と彼女です」

紡ぎの精霊は私に視線を送ると、右手に淡い光を灯らせる。
彼女はリュールの左手を取ると、その薬指にそっとその光を纏わせた。



「かつてともに紡いだ絆の力よ……未来を変える力となれ!」



紡ぎの精霊の声に各所に落ちていた指輪が弱くも淡い光を放ち始める。
それらはゆっくりと引き寄せられるように宙を漂い、彼女のもとへと集まっていく。

「……綺麗」

それはまるで夜空に光る星々のように宙に散りばめられ、やがて動きを止めた。
その場でふわふわと漂う指輪たちの幻想的な光景。





さん」





精霊とは違う女性の声が私のすぐ傍で私の名を呼ぶ。
腕の中で眠るグリを気遣いながら振り向くと青い髪の少女がにこりと微笑んで、握り込んだ拳を胸の前で勇ましく掲げてみせた。

「あなたが紡いだ絆の力が私たちを呼び起こしてくれました。
次は私たちがこの力で運命を変えてみせます」
「ルキナ……わわっ」

くしゃくしゃと私の頭を大きな手が撫でていく。

「やっとあんたの力になれる時が来たんだな。……俺に任せておけ」

得意気に頷いて、ルキナとともにアイクが私の背を離れていく。
そして、彼らに続いて一人、また一人と精霊の力で顕現した紋章士たちが私の肩や頭をぽんと叩いて通り過ぎていく。
それはこれまで続いた宛てのない長旅を労うかのように優しく、触れられたところがぽうっとあたたかくなるようだった。

。君が探していた旅の終着点に無事着いたみたいだね」
「マルス…」
「…君の苦労は無駄にしない。必ず連れ戻すから僕たちを信じていてくれ」

旅の始まりを知っている彼だからこそ、何も知らない世界で生きる術を持っていなかった私の努力を知っている。
この人の瞳はいつだってまっすぐで……安心する。

「お願い、リュールを助けて」

右手を大きくリュールへと伸ばすと、薬指に嵌めていた英雄王の指輪がするり抜けて、私の手元から離れていく。
細く長い優しい手は遠慮がちに私の頭を撫で、それからそっと離れた。

「紡ぎの精霊よ、僕たちの心を彼に届けてくれ」
「はい。この者を想いし者たちのその御心を今ひとつに…!」

一線の光が12の指輪を繋ぐように通っていく。
光の円となったそれは眩いほどの光を放ち、リュールの体を覆い尽くす。





ここが私の…終着点。

彼らの想いをひとつに紡ぐために私はここまでやってきた。





祈るように手を組む人。
見届けるようにまっすぐリュールを見つめる人。
涙を流しながら必死に彼の名前を呼び続ける人。
一度だけ目を伏せて、私もまた煌々と輝く先を見つめて祈りを送る。



私もあなたにもう一度会いたい。

あなたが願った優しい世界を…一緒に見たい。

リュール。

どうか、私たちのもとに戻ってきて。